超高速 西国33番「順打ち」巡礼編その5【OB首長~気まま旅~】

第8番札所 豊山(ぶさん) 長谷寺(はせでら)

いくたびも まいる心は はつせ寺  山も誓いも 深き谷川

 

真言宗豊山派の総本山

初瀬山(はつせやま)は古代から神々が降り立つ聖地であったという。そこに道明上人(どうみょうにん)が天武天皇の病気快癒を願って開創された寺が長谷寺である。また西国33所巡礼の開祖、観音信仰に厚い徳道上人(とくどうしょうにん)が慈悲の霊験を宿した「十一面観世音菩薩像」を新たに造建し、長谷信仰が全国に広まったといわれている。平安時代初期から観音霊場として朝廷から崇拝され、官寺に準じる扱いを受けている。摂関期には貴族の参詣も多くなり、源氏物語や枕草子などの物語にも長谷寺詣の記載がのこる。

長谷寺 山門

 

ご本尊は、室町時代後期に近江国の楠の霊木を用いて造られており、平らな石(大盤石)の上に立つ独特の姿をされた長谷観音の根本像である。御身の丈は10m余、右手に錫杖を持たれており、特別なお徳を持たれ、人々の願いに対する慈悲の深さを示しておられる。錫杖を持った観音菩薩は珍しく、地蔵菩薩信仰をも取り入れた「新しいタイプの観音様」として登場されたのではないだろうか。木造仏としては国内最大級で、重要文化財とされている。

長谷寺 錫杖を持たれた

 

長谷寺は学問の寺としても有名である。戦国末期に專誉僧正(せんよそうじょう)が入山以来、その学徳を慕って全国から僧が集まり、学問寺として発展した歴史を有する。真言宗豊山派総本山であり、末寺は3000余、檀信徒200万人を有し、修行僧の数も多く、いまでも学問の寺の流れは脈々と続いているようだ。

 

長谷寺の登廊

 

 

【一言アドバイス】

とにかく大きくて立派な寺院である。仁王門から本堂に通じる登廊に先ずビックリする。平安時代に春日大社の社司中臣氏が子の病気平癒のお礼に造ったという。上中下の三廊に分かれており、399段あるそうだが数えかけて途中で止めた。中・下廊は明治時代の再建で、優雅な長谷灯籠が吊してあった。本堂は舞台造の大殿堂であり、独特の眺望が楽しめる。五感が研がれて生き返ったような「新鮮さ」が、確かにその空間から感じ取れた。境内に咲く花々は観音様への献花・・・観音浄土の世界かもしれない。

 

西国番外 法起院

極楽は よそにはあらじ わがこころ おなじ蓮(はちす)の へだてやはある

 

閻魔大王との約束で始まった観音巡礼

法起院が番外の3つに何故入っているのか。それは33所巡礼の創始者である徳道上人がこの寺を開いたことに尽きる。徳道が62歳の時に重い病気にかかり半死半生の折、閻魔大王から冥界に招かれる。「日本には観音菩薩がその分身を33ヶ所の霊場に現しているが、それを知らずに、罪障(悪い行為)をなして地獄へ墜ちる者が多くなって困っている。罪障消滅の功力を得る最も良い方法は観音巡礼だ。娑婆(現世)に戻って、諸人に巡礼を広めよ。」と閻魔大王が言う。徳道は「巡礼したものは誰一人、地獄に堕とさないとの証文が欲しい」と応じた。すると閻魔大王は証文とともに観音霊場の名が記された33個の宝印(納経印)を徳道に渡した。

徳道は冥界から蘇り、やがて巡礼に出た。ところが閻魔大王との約束を信じる者が少ない。徳道は仕方なく(機を熟すのをまとうと)宝印を中山寺(第24番)に埋めた。270年後その宝印を花山法皇が掘り出し、観音巡礼を「再興」していくことになる・・という見事なロジックが存在する。平安時代の仏教は朝廷や上流階級のもので、庶民は祈祷や極楽往生の手法を知らないまま亡くなっていった。そこに「観音巡礼をすれば誰でも地獄に墜ちることはない」と説かれ、極楽往生への道が開かれたのである。

観音信仰には難しい教えや条件はないので、庶民層に受け入れられ、広がっていった。これが徳道上人の創始伝説であり、徳道でならなかった理由は、徳道が開基した「長谷寺」と造建した「本尊の観音」にあるのだ。長谷寺が建つ「初瀬」は長い谷が続く奥まった場所で、死者を弔う霊地でもあり、当時は「地獄の入口」に見たてられていたのだ。長谷寺は冥界と現世の橋渡しをする存在であり、開基の徳道上人が観音信仰を普及させる先達に選ばれたのであろう。

 

【一言アドバイス】

法起院は長谷寺の門前町に位置し、参拝者のほとんどが帰路に立ち寄る寺である。しかし長谷寺の威容に圧倒された直後なので、法起院の存在とその看板をついつい見過ごしてしまう。次の第9番札所に向かう途中で番外の法起院に気がつき、慌てて戻ってこられた方も多いと思う。仁王門からは指呼の間だ。戻り道では左側の看板を見過ごさないよう注意しながらゆっくり歩いて欲しい。

 

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