『あと少し、もう少し』【図書館からおすすめの一冊】

瀬尾まいこさんは、いつか読もうと思っていた作家さんのひとりだ。坊っちゃん文学賞大賞受賞作『卵の緒』でデビュー、『幸福な食卓』など受賞作多数。そして2019年『そして、バトンは渡された』で、平成最後の本屋大賞受賞。

今度こそ読んでみようと手に取ったのが、2012年に発表された『あと少し、もう少し』。タイトルに惹かれた。

この本は中学生駅伝を描いた青春小説。全く駅伝に興味はないが、ほんの数ページ読んだだけで、時間も忘れ夢中になってしまった。

主人公の桝井は、中学3年生、陸上部の部長。今年が最後の駅伝。今までは「鬼のような神のような」満田先生がいて、メンバーを集め指導し、強くしてくれた。てっきり今年もそうだと思っていた。ところが、教師には異動があり、新しく顧問になったのは、陸上をまったく知らない美術教師の上原先生。

桝井は途中で挫けそうになりながらも、メンバーを集めていく。とにかく、メンバーひとりひとりが個性豊かで魅力にあふれている。1区は元いじめられっ子の設楽。2区は不良の大田。3区は頼まれたら断れないジロー。4区はプライドの高い渡部。5区は後輩の俊介。6区は桝井。桝井とのやり取りの中でそれぞれの考えや、中学生なりの人生観が見える。その中で先生たちもいい味を出している。陸上の顧問としては頼りない上原先生も、しっかり生徒を見守っているし、大田の担任、小野田先生もいい先生だ。

なぜこんなにいきいきとした中学生や先生、学校生活が描けるのだろうという疑問は『見えない誰かと』を読んで解決した。瀬尾さんの中学校国語教師としての経験が、この本の登場人物たちをいきいきと輝かせているのだ。瀬尾さんのやさしい文体で描かれる個性豊かな登場人物たちにぜひ皆さんも出会ってみて欲しい。

加東市中央図書館 藤田

書籍情報

『あと少し、もう少し』

瀬尾まいこ/著

新潮社

 

コラム 加東市