『任侠学園』【図書館からおすすめの一冊】

日村誠司は、堅気に迷惑をかけず、任侠と人情を重んじる正統派ヤクザの阿岐本組で代貸を務めています。その組を率いる阿岐本雄蔵は顔が広く、情報収集能力に優れ、度胸も人望も申し分のない頼れる組長なので、阿岐本組はわずか6人だけの小所帯ながら、広域暴力団の傘下にも入らず、細々とでも地域に根ざして生き延びてきました。

しかし、雄蔵には文化的事業となると見境なく首を突っ込んでしまう悪癖があり、それが再発して面倒なことにならないかと代貸の日村は常々恐れていました。

ところが、ある通夜の席でその恐れていたことが現実になります。雄蔵にとっては弟分であるが、日村にしてみれば疫病神としか思えない永神の誘いに、雄蔵が易々と乗ってしまったのでした。なんとそれは、経営難に陥り、潰れかかった私立高校の再建と運営を、ヤクザである阿岐本組が請け負うというとんでもない暴挙でした。

校内で煙草を平気で吸う生徒や割れたまま放置された窓ガラス。荒れ放題の花壇や落書きだらけの校舎。おまけに、理不尽なクレームをわめき散らす保護者たち。そして、再建を諦めてしまった校長に、無気力な教師や事務長。ヤクザも唖然とする荒廃した学園を、日村たちヤクザの阿岐本組は建て直すことができるでしょうか。

著者の今野敏さんは、警察小説の第一人者として知られていますが、ヤクザが町の倒れかかった文化的事業を、筋の通った任侠道と厚い義理人情を基軸にしながら再建していくという奇想天外な設定とテンポのよい展開や軽妙なやりとり、そしてなにより、爽快な締めくくりでこの作品をまとめられています。

この秋に上映予定の原作でもありますが、今野敏さんの一味違う世界をぜひ読書でご堪能ください。

多可町図書館 木俣 幸雄

 

書籍情報

『任侠学園』

今野 敏/著

実業之日本社

 

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