西脇市の魅力を再発見~兵庫県地域IT人材育成事業~

令和3年度に実施された兵庫県地域IT人材育成事業で、西脇市に関わるケースをご紹介します。

一般の女性たちが切り取る世界から、まちの魅力を再発見する

 

「カメラ」で集う女性たちの価値
ビートルは『カメラガールズ』というカメラ好き女性が集まる日本最大級の女性コミュニティメディアを運営しています。カメラガールズと地域をつなげ、情報発信や写真提供、時には女性視点のモデルコース提案など、カメラ好きの一般女性たちが地域に関わる仕組みがあります。

 

20代から60代まで幅広い年齢層のカメラを趣味にする女性たちが集まり、全国各地で12,000人ほどいます。本業は会社員や医者、シェフなど多様な職種の人たちが参加しています。カメラガールズのWebサイト上で体験や旅の募集が行われ、応募者が現地を訪れて、さまざまな体験をしながら地域や企業の隠れた魅力を写真を通して発信します。

撮影機器は個人の自由というゆるさや、経験値など関係なくカメラ好き女性なら誰でも参加できるのが魅力。カメラガールズたちは『カメラ』を通して人や地域とつながり、自分たちの趣味を楽しんでいます。

 

全国各地で撮影イベントやプロジェクトを実施しながら、地方創生や地域活性化、まちや企業の知名度アップに寄与するので、多くの自治体や企業から注目を集めています。

 

『カメラガールズ』の最大の魅力は、親しみやすさにあるといえます。カメラ好きの一般女性たちが、ターゲットの目線に立って高いクオリティの写真を撮影し、広告感を感じさせない切り取り方、SNSで楽しそうに魅力を発信するので、親しみある情報発信でユーザーの心を惹きつけるのです。

 
ビートルが兵庫県地域IT人材育成事業に参画するきっかけは、代表の田中海月さんが兵庫県西脇市にゆかりのある方と知り合いだった縁で、2021年夏、同市で有名な播州織ブランド『tamaki niime(タマキニイメ)』に出会ったことからでした。

「一度、旅行をかねて『tamaki niime』さんに立ち寄って話をしていた中で、西脇市の魅力発信を行いたいと聞きました。同社は自社のみならず、西脇市の魅力を自分たちで率先して届けたい、まちづくりに関わりたいという熱意がある方たちだったので、何かお手伝いできないかと思ったんです」と田中さんは振り返ります。

 

田中さんは常日頃から自治体の予算に頼った事業による事業継続の難しさを痛感してきました。だからこそ「本当の意味でのまちづくりは、取り組んだ活動が継続できてこそ」という考えが根底にありました。自治体の予算に頼る活動ではなく、民間事業者とタッグを組むことで継続できる仕組みが必要だと考えていました。

 

そんなときに、今回の兵庫県地域IT人材育成事業を知ったビートルは、西脇市観光協会と『tamaki niime』とともに一緒に取り組めるプロジェクトを行うため応募しました。

 

まちの人が、ヨソ者たちのSNSから学ぶ

ビートルがプロジェクトの舞台に選んだのは、西脇市。播州織として知られる同市ですが、魅力が伝えきれていないという以前に「一番の課題は、住人たちが魅力をあまり認識できていないことだと感じました。だからこそ価値がないと思うところにこそ魅力があると気づくきっかけをつくりたいと思った」と田中さんは企画の背景を話します。

 

ビートルは、2021年11月から2022年3月まで「西脇市の情報発信の強化」を目的としたプロジェクトを実施しました。

カメラガールズによる日帰り・1泊2日の撮影ツアー、SNSや自社メディアでの情報発信、西脇市の印象を語り合う意見交換会が開催されました。最後には、西脇市の市民たちに向けた情報発信のノウハウとプロジェクトの記録をまとめた冊子を制作しました。

 

期間中、ビートルのスタッフは市内のコワーキングスペース「ヘソノオプレイスAnn」を借りて、本社のある東京と行き来する形でプロジェクトを遂行していきました。

 

3回実施した撮影ツアーでは、各回で最大10名の募集を行って選ばれたカメラガールズが西脇市に出かけ、撮影を通してまちに触れてインスタグラムで投稿したり、意見交換会で感想や提案をしたりと、濃い内容でした。

 

意見交換会では、播州織を活かす策として「現地でのみ撮影できる特別感を打ち出す織物アイテムのレンタルサービス」「織物でカメラストラップをつくる」といったカメラガールズならではの意見や提案が出されました。

 

趣味として楽しむ人の集まりなので、カメラガールズに謝礼が支払われることはありません。純粋に関わりたいと思った人が参加するからこそ、写真提供やインスタグラム投稿など盛り上げも積極的に行います。楽しみで集まるからこそ、情報交換も率直な意見が聞けるので議論が活発になるのかもしれません。

 

「カメラガールズから西脇市の皆様へ。」と書かれた冊子は、「誰にでも配布できる冊子の形にして、地域の方が『西脇にもいいところがある』と感じて、発信に興味を持ってもらいたい」という思いから制作されました。

 

カメラガールズの視点、つまり外の女性から見たまちの魅力が伝わる内容で構成され、出された意見、旅に関するアンケート、「インスタグラムを効果的に使うワザ」といったSNS発信のノウハウなどが記載されています。西脇市は写真映えするまちであり、SNSを通じて地域の魅力を届けられるポテンシャルのあるまちだと、市民たちの情報発信の一歩を後押しする内容です。

 

プロジェクトに関わった『tamaki niime』や地域の事業者に冊子を見せると反響があり、冊子を市内の方に配布する希望の声も出ているそうです。

 

西脇市の未来を、写真がつなぐ
一般女性たちが中心となったプロジェクトは、「SNS情報発信に対するスタッフの積極性も増したように思う」と田中さんは振り返ります。兵庫県や西脇市、西脇市観光協会の職員といった日頃から地域の魅力を考える職員たちにとっても大きな刺激になったようです。

 

「普通の女の子が言うから伝わりやすい」と田中さんは考えています。

 

「カメラガールズたちがどんなことを感じて、インスタグラムにハッシュタグを付けて投稿するのかを見てもらい、一つひとつの発信から『情報発信とは何か』ということを考えていただける機会になったのではないでしょうか」と田中さん。

 

「今まで目を向けていなかった部分が見えたり、地元の人が改めて西脇市のことを知ったり、西脇市の面白さに気づいた瞬間をつくれた」と嬉しさを滲ませます。


播州織に携わる事業者さんとも関わる機会が多くありましたが、体験や工房見学を積極的に実施する話も生まれています。

 

「成熟していない観光地だからこそ、事業者の熱意や想いに触れる時間が、まちの可能性を感じさせ、継続的に関わりたいという気持ちを醸成すると改めて気づかされました」と田中さん。

「地域側がいいと思っていることと、届けたい人たちがいいと思うものが乖離している場合があるからこそ、カメラガールズに価値がある」と話します。西脇市は「日本のへそ」としてPRしてきましたが、カメラガールズたちのほとんどは知りませんでした。だからこそ、一般女性たちが切り取る写真や情報はまちの未来にとって大切な材料なのです。
 

 
「観光において、写真は情報発信の核になってくる部分だと思っています。今回のプロジェクトを通して、若者たちがどんなところに行きたがっているのか、どんなところを魅力に思うのかを明確にできる時間だったのではないかと思います」

 

また、ビートルがプロジェクトに参画するにあたり、リノベーション中の自社で各地域を紹介する物販も行おうとしていました。今回のプロジェクトを通して、播州織とコラボレーションした商品開発の話を検討するなど、継続的に西脇市に関われる関係を構築することにもつながりました。

 

「プロジェクトを機に『ちょっとインスタ頑張ってみるか』という気持ちになってもらえたら嬉しいです」と田中さん。

 

写真ひとつで、地域や人がつながり、まちの魅力が発見できる。それぞれの立場で無理することなく、まちに継続的に関われる、情報発信に悩む地域や次企業にとって参考になるプロジェクトでした。

 

レポート

『tamaki niime』を撮影アイテムに、兵庫県西脇市を巡る。

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