昔話の扉をひらこう【図書館からおすすめの一冊】
昔話はお好きですか、と問われて「もちろん知っていますよ。「ももたろう」とか「かちかちやま」とかでしょう。子どもの頃は絵本で読んだり、お話してもらったりしましたよ。」と思われる方が多いのではないでしょうか。今は家庭で年長者から小さな人に語られることは少なく、学校の授業の中で昔話の語りを聞くことが多くなってきました。昔話は単純で、ともすれば子ども騙しのお話のように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。実に奥深くあたたかいものであると、本書は優しく語りかけてきます。
目次は一の扉、二の扉、三の扉と続きます。昔話とはどういった文芸なのか、どんなメッセージが込められているのか、昔話は伝説や神話とはどう違うのか、なぜ子どもに昔話を語ることが大切なのか、覚えて語るにはどんな方法があるのかと、扉をひとつひとつ開けるごとに、学問的に深く、また身近なものとしても引き寄せられながら、昔話の世界を感じることができます。「昔話の中でどのお話が一番好きですか?と訊かれたら迷わず三年寝太郎を挙げます」とある、昔話に込められたメッセージを読み解く扉では、この昔話にそんな意味が込められていたのかと驚き、続く「シンデレラ」の解説と併せて、若い人たちに向けての時代を超えたあたたかいまなざしや知恵を感じることができます。また四の扉で語られる、著者が若い頃の柳田國男とのエピソードは、お二人の学問に対する誠実さに読んでいるこちらも背筋の伸びる思いがします。文化、文芸は地道で誠実な研究に支えられて今日、様々な形で享受することができているのだと改めて知りました。
本書は全体を通して、昔話を「語る」ことの重要性を伝えてきますが、巻末にある「親子鼎談(ていだん)」で子どもの言葉の獲得についても、実際の子育てを中心に深く語られています。
昔話という誰もが知っている身近なところに、こんなにも奥深い世界があり、また次の世代に伝えていく重要性、そしてそれが私たちひとりひとりに出来るのだということを教え、また優しくその世界に迎え入れてくれる一冊です。
今読むと、あとがきの最後の一行まで心に染み込んできます。ぜひ手に取って扉を開いてみてください。
加東市中央図書館
岩屋 朱紀子
書籍情報
『昔話の扉をひらこう』
小澤 俊夫/著
暮しの手帖社