はるかなるわがラスカル【図書館からおすすめの一冊】

テレビアニメの「あらいぐまラスカル」のかわいいアライグマを覚えている方は、案外多いのではないでしょうか。この小説はそのアニメの原作として有名な作品ですが、アニメとはまた違った趣きがあります。作者の少年時代の実体験をもとに、一匹の赤ちゃんのアライグマを巣穴から(いささか強引な方法で)手に入れ、成獣になるまで共に暮らした約一年間を描いた物語です。母親を亡くし、父親は仕事に忙しく、兄は戦地にあり、二人の姉は嫁いで生家を離れています。つまりは主人公の十一歳の少年は、ほぼ一人でほったらかされているのですが、そこに悲壮感はありません。彼は非常に多くのペット(スカンク、ウッドチャック、カラス、たくさんのネコ、セントバーナード種の犬)を裏庭や納屋を使って飼育し、また居間で五メートル半のカヌーを作っています。
 

この男二人の気楽な生活の中にあらいぐまのラスカルがやってきます。少年スターリングは、はじめは庭の木の根元近くの穴に住まわせていたラスカルを、朝食を同じテーブルでとるようにしつけ、夜はベッドで眠るようにします。ラスカルは他のペットと違い、彼にとって大切な友だちとなっていきます。近所の人の畑を荒らしたラスカルをゲージに入れなければならないときも、大きなゲージを自分で作り一緒に入ります。
 

スターリングが戦地にいる兄のことを思い出すことで、この物語が第一次世界大戦の時代にあることを感じさせられますが、アメリカの雄大な自然を背景に、一匹のアライグマが一人前になるのと共に、少年の心の成長を瑞々しく描ききります。
 

最後、少年は恋の季節の来たラスカルに自分と共に暮らすか、他のアライグマと森に帰るのかを選ばせます。この別れがさわやかに物語を締めくくります。
 

加東市中央図書館 岩谷朱紀子

 

書籍情報

『はるかなるわがラスカル』
スターリング・ノース/著
亀山 龍樹/訳
小学館

 

コラム 加東市