きつねの橋【図書館からおすすめの一冊】


 
京(みやこ)でひとかどの者になると、故郷の相模国(神奈川県)から勇んで出てきた、15歳の平貞道(たいらのさだみち)。源頼光(みなもとのよりみつ)の郎等(ろうとう)になり、手柄を立てたいという気持ちはふくらむものの、屋敷には多くの郎等がいて、出番はなかなか回ってきません。
 
ある日、郎等たちが「きれいな女の姿をしたきつねが、京のはずれにある橋で、人を化かしている」と噂しており、行き掛かり上貞道がとらえてくることになります。橋まで行くと、1人の女性が「京まで馬に乗せてほしい」と声をかけてきました。馬に乗せたあと一度は化かされ逃げられますが、二度目には屋敷に連れていくことができました。そこで郎等らにいたぶられそうになったところを助けた縁から、“葉月(はつき)”と名乗るそのきつねは、たびたび貞道の前に姿を現すようになります。
 
葉月が橋にいたのは、自分が仕える幼い姫君のため、京の中に入る必要があったからでした。しかし昔、わるさの罰として京へ入ることを封じられて以来、京の境にあるこの橋をどうしても渡ることができなかったのです。貞道と馬に乗ることで、なぜか封印が解けたという葉月は「うけた恩はかえす」という言葉どおり、ふしぎな力を使い、貞道が危ないところを何度も助けます。そして貞道もまた、葉月の窮地を救うのでした。
 
日本の古代を舞台にした物語に定評がある作者は、創作であっても史実を丁寧に盛り込んでおり、貞道たちが見たであろう風景が、鮮やかに目の前に浮かんできます。思慮深く、しかしいざというときには太刀を振るうこともためらわない大人になりかけの少年と、人間の気持ちに敏感なきつねとの、ふしぎな友情を描いた物語です。

 
多可町図書館 吉田 麻美

 

書籍情報

『きつねの橋』
久保田 香里/作
偕成社
 

コラム 多可町