インスマスの影 クトゥルー神話傑作選【図書館からおすすめの一冊】


 

この「インスマスの影」ではクトゥルー神話の邪神や神話生物が登場する物語七編が収録されています。表題作の「インスマスの影」は“私”が体験したことを語る形で物語が進みます。成人祝いに観光や古跡の研究を兼ねてニューイングランドを周遊していた私は、母方の家族の出身地へ向かう途中、インスマスという地図に載っていない荒廃した港町を知ります。好奇心から町について調べている中で、インスマスに対しての人々の嫌悪を感じます。さらに、町へ向かうバスの運転手からは魚市場のようなにおいがし、インスマスの町の人々は魚類を思わせる容貌をしていたり、私自身もどこか嫌な感じを覚えながらも、町について深く知っていきます。そして町の老人から話を聞き、恐ろしい秘密を知ることとなります。
 

ラヴクラフトは怪奇・幻想小説の先駆者のひとりと言われています。しかし、生前刊行した単行本はこの「インスマスの影」一冊のみでした。当時のアメリカでは怪奇小説の市場が狭く、生前にはなかなか評価されず、亡くなってから友人たちの手によって広く知られるようになったそうです。特に彼らが創作したクトゥルー神話は大系化され、架空の神話ながら辞典やガイドブックなども出版されています。
 

「インスマスの影」の“私”のように、ぞっとするのに抜け出せない不思議な魅力のあるラヴクラフトの怪奇の世界、暑い夏にいかがでしょうか。
 

 

 
西脇市図書館
小田 麻貴

 

書籍情報

『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』
H・P・ラヴクラフト/著
南條 竹則/編訳
新潮社
 

コラム 西脇市