カラフル【図書館からおすすめの一冊】

多可町は3つの文化発祥を持つ町です。ひとつは「山田錦」、ひとつは「敬老の日」、そしてもうひとつは「杉原紙」です。杉原紙は楮(こうぞ)を原材料とする手漉き和紙で、平安時代後期の藤原摂関家の氏長者(うじのちょうじゃ)、藤原忠実の日記『殿暦』に「椙原庄紙」という記述が見て取ることができる歴史的価値のある和紙です。その後、貴族、武家、大寺社など幅広い層に普及していくのですが、明治以降の洋紙普及により、日本の手漉き和紙は急激に衰退します。杉原紙もその例にもれず、大正期には途絶え、幻の紙となりました。そんな中、和紙研究の先駆者でもある寿岳文章(じゅがくぶんしょう)博士(英文学者)と新村出(しんむらいずる)博士(言語学者)が杉原谷を訪れ、この地が「杉原紙」の発祥地であることを証明されました。郷土の先人達が幾千幾万の苦労を重ねて築きあげてきた地域の宝物を残したい。そんな思いが地域を動かし、住民一体となって、昭和45年、杉原紙は復活をとげ、現在に続いているのです。

筆者は平成17年の合併により生まれた多可町の初代町長です。総務省地域力創造アドバイザーとして、地域活性化、地域創成の多様な活動を行われており、この杉原紙もプラチナ遺産(価値ある地域資源)の一つとして捉えられています。『紫式部が愛した紙』では、数多くの史料や文献を手がかりに様々な角度から杉原紙について考察を重ね、その中から一つの仮説を導きだされています。それは、『源氏物語』や『枕草子』が杉原紙に書き綴られていたのではないかということ。もしそうであったのなら、誇り高き文化が根づく町としての夢が無限に広がります。地域の歴史を見直し、住民自らが学ぶことが、多可町のシビックプライド(自分が住んでいる地域への誇り)につながります。そんなことを願いながら、情報発信を続けられています。

 
多可町図書館 依藤 啓子

 
 

書籍情報

『紫式部が愛した紙』
戸田 善規/著
スタブロブックス

 

コラム 小野市