わたしのげぼく【図書館からおすすめの一冊】
私の家族の話で恐縮だが、子どもが小学生の時に「一番小さくて大人しくてかわいい女の子を選んだんだ」といって子猫を連れて帰ってきた。しかし、その言葉が嘘だと数カ月で判明した。見上げるほど高い木に登るわ、先住の犬を負かすわ、想定外の生き物を連れて帰ってくるわ、かなりのお転婆のお嬢猫でお世話係はすっかり私になっていた。
そんな中、図書館で偶然手に取ったのが同じハチワレ猫の表紙の『わたしのげぼく』という大人向けの絵本だった。性別はオスだが知的なネコ「わたし」が主人公。その「わたし」の飼い主は4さいのおとこの子なのだが、泣き虫でどんくさいことから「わたし」から「げぼく」呼ばわりされる。絶えず上から目線のものの言いようだが毎日「げぼく」に尽くされ、ともに笑い、時には喧嘩をしながらも幸せな日々を過ごす。月日が流れやがて別れの時、「わたし」は「げぼく」へ思いを残す…とここまで読んで、うちのお嬢猫と子どもの関係とはまた違うし(お嬢猫の子どもへの愛情表現はストレートだったので)私にいたっては「げぼく」以下ではないかと少し意気消沈して絵本を閉じた。
それから数年、子どもも巣立ち我が家は大人ばかりに、お嬢猫も歳を重ねおとなしくはなったけど、私が呼んでも来るわけでもなく、相変わらず食の好みもうるさい。それでも気が付けば同じ部屋でくつろいでいたり、名前を呼ぶと尻尾で返事をしてくれるようになった。もしかして私は「げぼく」に昇格したのだろうか?
改めてこの絵本を開いてみて、動物を飼うといずれ訪れる「死」がテーマにも関わらず読み終えた後の余韻は温かい。それは「わたし」であっても「げぼく」であってもお互いの存在の大切さが最後まで描かれているからだと思う。猫の時間と人との時間の流れの違いや、「げぼく」の表情はわからないままだがそれでも気持ちが伝わる絵の力も感じてほしい。
三木市立吉川図書館 今村清栄
書籍情報
『わたしのげぼく』
上野 そら/著
くまくら 珠美/作画
アルファポリス