ニルスのふしぎな旅 上・下巻【図書館からおすすめの一冊】
いたずらが過ぎた罰として、トムテの魔法で小人の姿にかえられた男の子ニルスは、飼い鳥ガチョウのモルテンの背中に乗って、空へ飛び立ちます。折しも南から飛んできたガンの群れとともに、スウェーデンじゅうを旅することになります。
旅の中でさまざまな人や動物に出会い、幾度も予想だにしない試練に遭ううちに、それまで自分以外の誰かを思いやるということのなかったニルスが、日を追って変わっていきます。困っているものを、真心を持って助けようとするニルスを、ガンの隊長アッカは次第に信頼してくれるようになり、誰からも愛されないと感じひねくれていたニルスの心が、大きくひらかれていくのでした。また、今では自分と隔たってしまった人間というものを、ニルスは素直に、素晴らしいと感じられるようにもなります。
旅が終わりに近づいたころ、ニルスはトムテが自分を元の姿に戻してくれるかもしれないと知ります。しかしそれには、モルテンの命を差し出すという代償が要るのでした。自分のために友だちを裏切ることなどできない、ニルスは悩みます。旅の間いつも一緒だったモルテン。凍った湖も嵐の海も、一緒に乗り越えてきたモルテン! そしてまさにモルテンの命が失われそうになった刹那、ニルスが選んだ本当に大切なものは何だったでしょう。
物語は、人間の善悪、生と死、人間社会と自然といった人の営みのなかで並存しにくいものを、広い視野をもって語っています。自然のなかに生きる多くの師が導くニルスのふしぎな旅は、人間への信頼と愛情につらぬかれた、生きることのすべてが織り込まれた物語なのです。
多可町図書館
書籍情報
『ニルスのふしぎな旅 上・下巻』
セルマ・ラーゲルレーヴ/著
菱木 晃子/訳
福音館書店