童話作家のおかしな毎日【図書館からおすすめの一冊】

 

 

夕暮れ迫る図書館児童図書コーナーで、いつも閉館間際まで本を読んでいる女の子がいました。お迎えのお母さんは、息を切らしながら女の子に駆け寄り、「ごめんね。遅くなった。」と言います。女の子は、本から目を離すことなく、ゆっくり頷き、数分後に宝箱を閉じるように本の扉に手を置きます。

その女の子が、何度も、何度も手にしていたのが、富安陽子さんの作品でした。本が貸出中になると「あのー。すみませんが、スズナ姫の本読みたいんです。どうしたら読めますか。」小学3年生の女の子が、大人の利用者に交じって、カウンター前の列に並び、予約を求めるのがどんなに勇気のいることだろうと思った私は、「スズナ姫の本、当分貸出だから、ガマ田先生はどう?ムジナ探偵もあるよ。」なんて、彼女の姿を見るたびにおせっかいを焼いて随分、彼女を困らせていたかもしれません。

 

あれから数十年が経ち、富安陽子さんの作品が課題図書になり、絵本のシリーズもたくさん出版されました。あの女の子も、子ども時代に読んだ本を、身近な子ども達に手渡しているかもしれません。

 

何代にも渡り、読み継がれてきた本がある図書館は、作者と読者が時を超えて出合える異空間です。「人はなぜ本を読むのでしょう?」なんて問いに少し考えてみたくなった方は、この本を手に取ってください。童話作家である富安陽子さんの文章とイラストによって醸しだされる世界観が、それぞれの読者に、それぞれの答えを出してくれるでしょう。子どもがゆっくり、ゆるやかに育つ国であるようにと願う作者が世に送り出した作品は、誰かの心と心を繋ぎ、日常に小さな奇跡を起こしているかもしれません。

 

小野市立図書館  和田真由

 

書籍情報

「童話作家のおかしな毎日」

富安 陽子/著

偕成社

コラム 小野市