トンチキ鎌倉武士【図書館からおすすめの一冊】

「鎌倉武士」と聞いて具体的な名前がスラスラ出てくる人は、相当な歴史好きなんじゃないでしょうか。
 
明治維新まで約700年続いた武家政権がはじまる、日本史の大きな転換点の主役たちですが、群雄割拠の戦国時代と比べるとなんとなく印象が薄いと感じてしまいます。
 
そんな、ちょっと不遇な鎌倉武士にスポットライトを当て、個性豊かに描き出してくれるのが、この『トンチキ鎌倉武士』です。
 
「れきしクン」としてタレント活動もされている著者の長谷川ヨシテルさんが、明るく軽妙な筆致でそれぞれの人物を生き生きと描き出してくれます。
 
それでいて『吾妻鏡』『玉葉』『愚管抄』といった基本史料や『平家物語』『源平盛衰記』などの軍記物をもとに、出展を明記しつつ丁寧に記述され、いい加減な内容ではありません。
 
誰もが知っている英雄・源頼朝のパワハラ上司だった意外な一面や、悲劇の主人公・源義経の自己中で野心家だった側面など、有名な人物のイメージが変わるエピソードから、鎌倉の頭脳・大江広元が実は中国地方の毛利家の先祖だということなど、あまり知られていないエピソードまで、幅広く紹介されています。
 
やや残念なのは、それほど「トンチキ」なエピソードがないところ。同じ著者の『ポンコツ武将列伝』や『ヘッポコ征夷大将軍』は本当に「ポンコツ」で「ヘッポコ」だっただけに少し物足りないと感じますが、資料の少ない時代なのでそこは仕方ないのかもしれません。
 
ちょっとした知的好奇心を満たしたい方や、鎌倉武士の少し違う側面に触れてみたい方、ぜひ本書を手に取ってみてください。
 
ちなみに、本書が出版された2022年はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が放映されていた年です。あのドラマを観ていた方なら、より生き生きと人物像が浮かんでくるはずです。かくいう私も、和田義盛は横田栄司さんで再生されます。
 
加西市立図書館 深田 正範

 
 

書籍情報

『トンチキ鎌倉武士』
長谷川 ヨシテル/著
柏書房

 

コラム 小野市