『君たちはどう生きるか』(図書館からおすすめの一冊)

『日本少国民文庫』(全16巻)の最終刊として編纂者山本有三自ら執筆する予定でしたが、病気のため吉野源三郎が代わりに筆を取り1937年に出版。その年は、軍国主義が日ごとにその勢力を強め、日中の戦争が始まった年。すでに言論や出版の自由はいちじるしく制限され、労働運動や社会主義の運動は、激しい弾圧を受けていました。そんな中、山本有三は「今日の少年少女こそ次の時代を背負うべき大切な人たち。この人々には、自由で豊かな文化のあることを、人類の進歩についての信念を、今のうちに養っておかねばならない」との思いから『日本少国民文庫』を出版。

この作品『君たちはどう生きるか』は「中学2年生のコペル君の日常での出来事や感じた事」「コペル君をそばで見ている叔父さんからコペル君へのお手紙(おじさんのノート)」という物語形式で、日常の経験から大切なことを学んで成長するコペル君の姿が描かれています。『おじさんのノート』のテーマは「ものの見方について」「真実の経験について」「人の結びつきについて」「人間であるからには」「偉大な人間とは」「人間の悩みと、過ちと、偉大さについて」。

この物語の最大の事件は「親友北見君に対する上級生のリンチ事件」。こんなことがあったら一緒に殴られると約束していたのに、水谷君や浦川君は約束を守ったのに、コペル君は全身がふるえ飛び出していくことが出来ず見過ごしてしまったのです。聞こえてくるのは「卑怯者」という無言の声。死んでしまいたいくらいの後悔と友人を失った悲しみに病気になってしまうコペル君。コペル君はこの事件をどう解決するのでしょうか?

最近、教科としての「道徳」が始まりました。言葉だけで理解することは困難でも、「個々の経験」と結びついたとき、この本のように大きな成長の助けになるのではないでしょうか。

優しい語り口、美しい風景描写、そして何よりも思いやりと信念を持った人々に、あなたも心癒されてください。

三木市立吉川図書館 井上 晴美

書籍情報

『君たちはどう生きるか』

吉野 源三郎/著
岩波文庫

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