旅の効用【自己啓発と生涯学習支援のきりん屋】
旅をつくる 旅からつくる 自己啓発と生涯学習支援のきりん屋/国本豊泰
旅の効用〜ごあいさつにかえて
「かわいい子には旅をさせよ」という言い回しがあります。
旅することで人は成長するーーこのことは、古くからたくさんの人たちが認めてきた「旅行の〝効用〟」だといえます。
とはいうものの、この効用を意識した「成長するための旅」を実際にやっている(やらせている)人たちというのは、意外と少ないものです。
旅行に行く人はたくさんいます。
でもその旅行のほとんどは、行って、楽しんで、帰ってきたら終わりです。
私はこれをとても惜しいことだと思っています。
せっかく少なくない時間とお金をかけて行ってくるのに、もったいないと感じてしまいます。
私自身、周りの人たちや環境や機会に許されて、これまでいろいろな旅行をしてきました。
そして、インドや東南アジアなどを旅行する中で、大いに鍛えられました。
自分は旅行に育ててもらった人間だという自覚があります。
その体験の中で実感しているのは、「ただ行きゃあいいってもんじゃない」ということです。
〝効用〟が高い旅行はたくさんありました。
反対に、薄いものもたくさんありました。
ふりかえってみて、「あまり得られなかったなあ」という回も少なからずあったわけです。
だから私はずっと考えてきました。
このちがいはどこにあるのか?
旅行体験の中の、どんな要素が、人をひと回り大きくするのか?
そして、ある程度の答えが見えてきました。
(いまも考え続けてはいますが)
旅行という活動に、正解も不正解もありません。
しかし「人を育てる〝効用〟が高い旅行」には、いくつかの共通した要素がある。
それを伝えること。
そして、旅行の可能性を信じてくださるセンスを持った人たちが、それを実践するお手伝いをすること。
これが私の仕事です。
人間力を育てるだなんて、雲をつかむような話です。
そもそも私自身、完成された人格からは程遠い、欠点も迷いも悩みもたくさん抱えた人間です。
それでも、伝えられることはあります。
どこからかでも、何かしらの糸口からでも、始めることがなければ、その先の成長なんて見込めないのですから。
〝効用〟のある旅づくりのコツ
旅行体験から得られる〝効用〟を最大限に活用することで、一言でいうなら「主体的に生きることができる自立人」に近づくことができます。
もう少し具体的には、たとえばこんな人です:
- 自力で情報を収集し、状況を判断し、最適な行動を選ぶことができる
- 未知の状況やトラブルにも動揺しすぎず、ストレスに強い心を持っている
- うまくいかない時や行き詰まった時にも、進む道を見出す工夫ができる
- 気が進まないことにも前進して取り組み、チャレンジできる勇気と行動力がある
- 世界の多様なあり方を認めつつ、情緒が豊かで明確な意思表示ができる
- 見聞が広く、豊富な話題で周りの人たちを楽しませることができる
ではこんな〝効用〟のある旅行をつくるには、どうすればいいでしょうか。
いくつかのコツがあります。
【心がまえ】と【技術】の2つの切り口からまとめてみました。
期間や移動距離にかかわらず、どこかへ出かけて、帰ってきたら、それは一つの旅行と呼ぶことができます。
そして、多かれ少なかれ、旅行という活動には、旅行者の成長を促す〝効用〟があります。
ただし、それが多いか少ないかは、旅行者の心がまえと旅のつくり方によって大きく差が出ます。
どんな気持ちで旅と向き合えばいいのか、そして、どんなことに注意して旅程を組み上げていけばいいのかーーこの二点から、〝効用〟の高い旅行をつくるコツについてお話しします。
【心がまえ編】
(1)旅行を一つの「手段」ととらえること
圧倒的に多くの場合、旅行者は旅行に出かけること自体を目的とします。
旅行に行くことができればそれでいいし、「なぜ旅に出るのか」「何のために行くのか」という問いは野暮の極みです。
でも、〝効用〟を求める旅行者は、この問いに答えられるようになっておきたいものです。
旅行とは行って帰ってきたらそれで終わりというものではない。
行って帰ってきたその先にあるものを手にするために、時間と費用を投資して出かけていくのである。
そしてその「あるもの」とは、「自己の成長」にほかならない。ーー
大目的としては、そんな理解でいいかと思います。
そしてその下には、一回ごとに小目標をぶら下げてみるのもオツなものでしょう。
たとえば
「知らない人に話しかけられるようになる」
「トラブルに遭ってもできるだけ平常心を失わずに対処する」
「高い金額をふっかけられた時も怒りを起こさない」
など、自分自身が人間として「一皮むけたな」と感じられるような状態を目標に据えるといいですね。
旅を一つの手段ととらえる考え方は、こちらの動画で詳しくお話ししています。
(2)目的に縛られないこと
「目的意識を持つことが大切」と言った舌の根が乾かぬうちに、どっちやねんという感じなのですが……。
旅行にはハプニングがつきものです。
ハプニングとは予期せぬ出来事、想定外の事態のことですが、そこには大きな学びのチャンス、すなわち成長を促すエッセンスが詰まっています。
前もって心の準備をしていなかった事態に直面したとき、それをどううまく切り抜けていくかは、旅行者の総合的な人間力にかかっているからです。
ただ、何しろハプニングなだけに、この機会は狙って獲りにいくことができません。
どんな予期せぬ事態に出会うか、事前の計画に織り込むわけにはいかないのです。
できることは、予期せぬことに出会う可能性を最大化すること。
そのためには、旅の目的や予定に縛られすぎず、たくさんよそ見をすることです。
あまりガチガチに前だけを見るのではなく、常にいくらかはスキをつくっておくとでも言いますか。
効率やスピードも大事ですが、適度なムダや遊びが加わることで、旅も人生もより豊かなものになります。
この境地をうまく説明する「セレンディピティ」という言葉があります。
「偶然によって価値あるものを手にすること」というような意味です。
このセレンディピティ、旅には欠かせない、超重要な要素です。
でも、この正体が一体何なのか、(少なくとも私の能力では)明確に説明できないのです。
決して芯を射抜いたものではありませんが、いろいろな事象に宿りそうなセレンディピティの事例を、ブログに書いています。
ぜひ読んでみてください。
(3)境界を乗り越えて安心領域を飛び出すこと
旅とは「境界を越えて行くこと」と言えるかもしれません。
海外旅行では国境を越える。国内旅行でも県境や市町村境を越えていきます。
コンパクトな旅でも、町内の境くらいは越えて出ますし、もっとも小規模なもので、自宅の敷地を踏み越えてお出かけに行くのも一つの旅と言えるでしょう。
今、自分がいる地点を中心として、その周りに広がる大なり小なりの領域があります。その領域の果てが境界です。自宅で考えるとわかりやすいですが、この自分がいる領域というのは、安心・安全・快適な、リラックスぬくぬくエリアです。
つまり、境界を越えるとは、安心・安全な現状を打ち捨てて行くことだとも言えます。
安心領域の外側。
そこにはワクワクや希望がありますが、同時に不安やストレスも満載です。時には危険だって待ち構えています。
でも、それらの(一見)マイナス要素にまみれる体験のすべてが、成長の糧になります。
境界を乗り越えるには、相応の勇気や度胸が必要です。
しかしご心配なく。乗り越えは、やっているうちに慣れてきます。そうして慣れてくると、変化や挑戦を過度に恐れなくなり、結果、行動力も上がってきます。
境界を乗り越えることーー私はそれを、一言で「越境」と呼んでいます。
「越境」の意味と、旅先での事例など、こちらの動画で詳しくお話ししています:
技術編
では、どんな形の旅をつくれば、上でお話しした心がまえを活かすことができるのでしょうか。
具体的な条件や行動指針など、ややこまごました話にも入っていきますが、お伝えします。
(4)ひとり旅であること
旅とは自分の道を自分で選び、困難に出会っても、それを押して進んで行くことです。
前へ進まなければ家にも帰れない。それが旅なのです。
このとき、一人きりの旅行なら、前へ進むためのあらゆる準備・手続き・作業・やり取り等々を、すべての自分でやらなくてはいけません。
成長を〝効用〟を見込んだ旅行づくりでは、この「一人きりだ」という条件がとても重要になります。
旅行先で何かしらの困難に出会ったとき、もしその場に誰か、友だちでも仲間でも恋人でも、そこそこ安心できる人が居合わせてしまったら、どうなるでしょう。
あなたはたぶん、その人に甘えて、依存してしまうんじゃないでしょうか?
ひとり旅なら一から十まで独力でやらなくてはならないことを、しかもやろうと思いさえすれば独力でできることを、代わりにやってもらおうとしませんか?
自分の進む道を自分の力で切り開く人たちにだけ、旅でも人生でも、完全に自由なのです。
自由に旅を楽しみたいなら、自由に生きたいなら、そしてそのために、自分の道を切り開いていく地力をつけたいなら、やはりひとり旅なのです。
ひとり旅にはどんな効用があるか、具体的な事例をいくつかブログに書いています。
(5)テーマ/探しものを設定すること
旅のテーマとは何か。
それは取りも直さず「果たすべき課題」です。
言い換えれば、「今回の旅の間に見つけ出したい探しもの」くらいでもいい。
せっかくの旅行なのに窮屈だと感じますかね。
でも、これは間違いなく言えますが、旅の間になすべきことがあるというのは、何もない旅行より圧倒的に毎日の滞在にハリが出ます。
でも、あまり真面目にとらえすぎず、また、設定するテーマにもこだわりすぎないでください。
テーマ自体は、実はなんでもいいんです。
他者から見たら心底つまらないものや、個人的な趣味などでいい。
この場合、ゴールそのものよりも、そこに向かって、勝手のわからない土地で、頑張るというプロセスの方がずっと大事です。
このプロセスが、あなたを成長させるのです。
実際に私が旅先で探したもの、また、これから探求してみたいものの例を、下の動画でお話ししています。
ほんまに心底しょーもない探しもんでスミマセン!ですけど(笑)
(6)首都から脱け出そう
海外旅行に行くときの第一歩は、ほとんどの場合、関空なり成田なり、最寄りの空港から飛行機ですよね。
そうして降り立つのは、短いところでたとえ2時間足らずのフライトでも、国境を越えてきた異郷の地です。
しかし、異郷とはいえ、日本から着陸した街は、旅行者にとって最大の安心空間になります。
まず着陸する街ーーその国の首都である場合が多いですね。
そこにも不安はたくさんあります。でも、いま無事に滞在しているこの街の外には、さらに濃い不安の霧が立ちこめている。
この街にとどまっていることが、現状で確保できるベストの安心です。
ですから、もちろん、安心安定のこの街を飛び出しましょう。
できるだけ早く首都を脱け出して、地方へ足を運んでみましょう。
小さな地方都市となると、ガイドブックに満足な情報も載ってません。
どんなところなのか、何があるのか、まずはどこへ行けばいいのか、とにかく情報がない。不安です。
でも、その不安の中に身を置くことが大事なんですね。
「地方」といっても、何も無理して遠くまで足を延ばさなくていい。まずはすぐ近くでいいし、近郊の隣町から始めてもいい。
とにかく、今の安心空間を出ることです。
ただし、情報の少ない空間に踏み込んで行くわけですから、どんな展開が待ちかまえているか、予測できません。
だから時間には十分な余裕を持ってください。「今日の夕方の便で帰国」なんていう日に決行することは、行く先にもよりますが、オススメしません。
動画の中では、主に韓国(釜山/首都じゃないですが…)を例にとってお話ししています。
(7)行きと帰りはちがう道で
旅行とは家を出て、再び家に帰ってくる活動だともいえます。
行き先や期間、目的やスタイルは多種多様。でも、「いってきます」と「ただいま」だけは、どんな旅行にも共通する要素だからです。
まあ確かに、行ったっきり二度と戻らないという形もあるにはありますが、ここでは、そういう深刻なのは「旅行」の枠から外すことにします(笑)
さてそうなると、旅行には「行き」と「帰り」があることになります。
そして、たいていの場合は、行きも帰りも同じ道を往復することになります。
その「往復」を、できるだけなくすよう、私は心がけています。
もちろん「帰らない」ということではなく、イメージとしては「行って、帰る」じゃなく「くるっと回って帰ってくる」という感じです。
要は同じ道を通らないようにしたいわけで、最高に理想的なのは一筆書きで家まで戻るルートです。
なぜかというと、同じ道を二回目に通る「帰り」は、安心安全ルートになりがちだからです。
行きの道中は初めてのことばかりで、ドキドキもワクワクも緊張も不安もある。
でも帰り道は、「もうすでに知っている」ので、迷うことが少ないし、そのぶんストレスも減ってしまいます。
安心しちゃうんですね。
するとそれだけ、(〝効用〟として)得られるものは少なくなる。
行きと帰りは、できるだけ、ちがう道を通るようにしましょう。
これは非日常の旅行だけでなく、日常の暮らしの中でも応用しやすいです。
毎日の通勤・通学でさえ、そのルートには何とおりのバリエーションがあるでしょう? あなたにとって未知の空間が、どれだけ潜んでいるでしょうか?
これ、意外とあると思いますよ。
ただし、何でもかんでも「二回目がいけない」というわけでは決してありません。
私も実際、同じ街に何度も足を運ぶ旅行が大好きです。
二回目というのは、インパクトとしてはマイルドになるものの、そのぶん深みが出るものです。初めてのときは気づかなかったことも見つかったりする。
最終的には「両方をバランスよく」ということになりますが、旅行を企画するときは、少なくともそれぞれのメリットをちゃんと意識しておきたいところです。
(8)安宿に泊まろう
知らない土地、特に外国というのは何かと不安なので、お金をかけることによって安心を得ようとします。
地元の人がいっぱいの屋台メシよりも、高級レストランに入った方が、お腹が痛くなるリスクが少なそうーー。
宿泊するホテルなんかも、あんまり値段が安いところは危なそうで心配ーー。
わかります。当たっている部分も大いにあります。
必要なところに十分なお金を払って、安全を確保するのは海外旅行の鉄則とも言えるでしょう。
ただし、だからといって安易に「高級」ばかりに走らないよう、私としては訴えたいところです(笑)
特に宿ですね。
もちろんあくまで現地の治安状況や、その街の宿事情(だいたい街ごとにカラーがある)によるのですが、事情が許すならば、できる限り安宿に泊まるようにしてください。
アジアでは「ゲストハウス」と呼ばれることが多いランクの宿です。
高級ホテルの最大の弱点は何かというと、部屋が快適なことです。
その快適さゆえに、部屋にこもってしまうことです。
もうお気づきかもしれませんが、ホテルの部屋の中というのは「安心領域」そのものです。
だからできるだけ飛び出しておきたいのです。
その点、安宿は部屋にこもることがむずかしい。
狭かったり、設備がシンプルだったりすることが多いので、寝ている間は別として、長くはいられないわけです。
そこで安宿の宿泊者はどうしているかというと、自分の部屋ではなく、宿のレセプションあたりに設けられている共同スペースをリビングにします。
部屋にいても仕方がないので、ソファやテレビのある共同スペースに集まってくるのです。
するとどうなるかというと、旅行者同士の出会いや交流が起こります。
そしてその結果、旅先でたまたま出会った人との付き合いが、その後何年も、ひょっとすると何十年も、続くことだって大いにあり得るのです。
「人」というのはやっぱり大事だなあと感じます。
私の場合、中高級ホテルをやめて安宿に泊まり歩くようになってから、いよいよ旅行にハマったような次第です。
まず関係をつくるためには、同じスペースに居合わせている、知らない人に話しかけることが必要です。
ただ待っていて話しかけられることもあるでしょうが、待ってるだけの人は収穫が少なくなります。
初対面の人に声をかけるというのは、ストレスフルなことですよね。
しかも、安宿に泊まっている人の中には、良くも悪くもクセのある人が少なくない(笑)
でも、そういうハードル(を思い切って越えていくこと)も、あなたの人間力を培ってくれます。
それに安宿には、「知らない人に話しかけやすい」「話しかけてもかまわない」「何なら相手もそれを待っている」という空気がある。
そういう雰囲気も、勇気をふりしぼって話しかけるあなたの背中を押してくれます!
勇気を出して踏み出した結果は、たいてい「がんばってよかった」になるものです。
安宿の最大の魅力は、値段の安さではありません。
思い切ってチャレンジしようとする人たちや、周りのみんなとはちがったことを試そうとしている人たち、そして、迷いやつまづきを乗り越えながら自分の力で前へ進もうとしている人たちを、優しく受け入れてくれる空間が安宿なのだといえるのです。
ちなみに、「安い=汚い」は誤解ですので念のため。
ほとんどの安宿は、質素でこそありますが、十分に清潔です。
安宿というのがどんなところなのか、どんな注意が必要で、どんないいことがあるのか。
ブログの中で詳しく書いています。
ぜひご一読ください!