『雑草のくらし あき地の5年間』(図書館からおすすめの一冊)

『雑草のくらし』は、著者・甲斐信枝さんが畑あとに5年間通い続け、雑草の自然のままの姿を観察することで完成させた科学絵本です。

1985年の発行から現在まで読み継がれているロングセラーですが、最近この本に密かなブームが起こりました。2016年末、甲斐さんに密着取材をしたドキュメンタリー「足元の小宇宙 絵本作家と見つける生命のドラマ」がテレビで放送されたからです。撮影時の甲斐さんは85歳でしたが、絵の具の入った大きなバッグを抱え、麦わら帽子をかぶって、畑の中を元気に歩き回っておられました。雑草にまるで人間相手のように話しかけ、ためらうことなく土に膝をつき、その姿を精密に繊細に描いてゆきます。相手と目線を揃えれば全く違う美しさが見えてくるという言葉通り、甲斐さんの描く雑草は瑞々しくとても美しい。

ところで、あき地での生存競争に勝ち抜く雑草は何だと思われますか?

正解はどの草でもありません。栄える命は次々と移り変わり、最後はすべて振出しに戻るからです。一度は滅びたと思った命も、土の中でじっと待ち続け、再び芽を出し、また枯れていきます。そんな循環を繰り返しながら、時分を待つ雑草たち。美しい花が咲くわけでも、美味しい実が成るわけでもありません。それでも畑の片隅の荒れ地で、雑草たちは慎ましく、強く、逞しく、生きているのです。その命の輝きに、この本を開いたあなたも、きっと勇気がもらえるはずです。

三木市立中央図書館 辻本美保

書籍情報

『雑草のくらし あき地の5年間』
甲斐信枝/作
福音館書店

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