もろびとの空 三木城合戦記【図書館からおすすめの一冊】
今はただ恨みもあらじ諸人の 命に代はる我が身と思へば
戦国時代の武将で、播磨三木城主・別所長治の辞世の句です。
戦国末期、織田信長に反旗を翻した長治は、二年に及ぶ籠城の末、自身の命と引きかえに城
兵を助けることを条件として降伏。織田軍による兵糧攻めで食料が尽きた城内では、多くの人
が飢え、倒れたといいます。
『もろびとの空』は、三木の干殺しとも呼ばれる三木合戦の裏側で、別所氏に仕えた人々に
スポットをあてた時代小説です。
三木城を守る部隊の一つとして描かれる、女武者組に所属することになった十六歳の加代が、
物語に大きく関わっていくことになります。部隊に志願した理由は、貧しい暮らしを少しでも
楽にしたい、幼い妹と弟を守りたいという思いからでした。慣れない武術の訓練にのぞみ、家
族を支えながら籠城生活を送るなかで、理不尽な出来事が彼女の身に次々と降りかかります。
終わりの見えない戦いは、城に集う人々の心も疲弊させていきます。
加代には、大切な誰かを安心させたいときや自身を励ます際に、掛ける言葉がありました。
「べっちょない」
大丈夫、別状ないという意味で、播州の方には馴染みある方言ではないでしょうか。過酷な
状況でも、「べっちょない」と常に前を向こうとする加代のひたむきな姿に胸を打たれます。
別所氏の運命の時が迫るなか、加代は未来を切り拓くことができるのか。凄絶な時代を懸命
に生きた、もろびとたちの物語の行く末を見届けてください。
三木市立青山図書館
書籍情報
『もろびとの空 三木城合戦記』
天野 純希/著
集英社