『まく子』【図書館からおすすめの一冊】
西加奈子さんが、2016年発表された本「まく子」です。インパクトある表紙や挿絵も著者自身が描かれました。
この物語の主人公は、ひなびた温泉地に住む11歳の男の子、南雲慧(サトシ)です。思春期の慧は誰にも邪魔されず、透明人間になっていられるといいなと考えています。成長期によくある、なんとなくの感覚。自分の身体が自分ではなくなり他のものになる、例えていうなら宇宙人になるようなる感じかもしれません。他人にも打ち明けられない、受け入れられない葛藤がある思春期なのです。
そこへ現れる転入生の美少女「コズエ」。彼女は、小銭、砂利、干し草、みかん、消しゴムのカス、水…なんでもかんでもまいてしまいます。この作品のタイトルの『まく子』は「撒く子」です。小さな子どもでもないのに、いろんなものをまいちゃう姿は不思議です。ありのまま生きていて皆の注目を集めます。慧も彼女のまっすぐで澄んだ瞳と言動にだんだんひかれていきます。身体も心も変化することへ戸惑う慧と、変化を楽しむようなコズエの会話に面白みがあります。
なんでも「撒く」コズエは最後に大きなものを残していきます。成長って、死を迎えるためのものでしょうか。死は恐ろしくって怖いものでしょうか。そうではないってことを教えてもらうために、この本を開いてみてください。地球は宇宙のなかの小さな星のひとつであり、地球人も他の星から見れば宇宙人であるといえるのです。地球に降り立った宇宙人。どどこにも永遠はなく、たくさんの粒が集まっているだけなのです。哲学ですが、西加奈子さんらしいファンタジーで描かれています。
大人になりたくない子どもたち。子どもは、全部わかって「知らないふり」をしているだけかもしれません。思春期の子どもの頃に読んでみたかった本ですが、大人にも読んでほしいです。長い話なのにあっという間に読めてしまいます。
三木市立図書館では、この本は児童書として取り扱っています。
三木市立図書館 福田 亮子
書籍情報
西 加奈子/著
福音館書店
図書館からおすすめの一冊シリーズ