精霊の守り人【図書館からおすすめの一冊】

 
読み始めると瞬く間に頭の中で映像が動きだす。歩くと土埃があがる、迷路のように張り巡らされた道を行きかう人々。息をのむほど美しい、瑠璃色の水が流れる川。まるで底がないように、どこまでも深く暗い谷底。甘辛いタレをぬって香ばしく焼いた魚を食べる場面では、その匂いまでただよってきそうです。
 
ヒロインは短槍使いの女用心棒バルサ。精霊の卵をその身に宿してしまった皇子チャグムを守るよう託され、刺客をかわしながら、精霊の卵の秘密を探っていきます。その舞台となるのは、サグとナユグという二つの世界が重なり合って、同時に進行しているという世界。そんな非現実的な設定であるにも関わらず、物語の1ページ目から、違和感なくどんどん引きこまれてしまいます。それは、文化人類学を研究されている上橋菜穂子さんの描き出した世界に、どこか懐かしさを感じるからなのかもしれません。
 
児童書コーナーに置かれることが多いこの本の熱烈な読者は、大人の方にも多いそうです。それは、派手な戦いのシーンや冒険の要素よりも、むしろ人物の心情が、丁寧に描写されているからでしょうか。いわゆる悪役は登場せず、皆それぞれの立場での正義を貫こうとします。そして、理不尽な運命に立ち向かうだけではなく、時にはそれを受け入れ、もがきながらも懸命に生きようとするのです。
 
旅の終わりに、過酷な過去にとらわれていたバルサが、その始まりの地である故郷へ出発します。実はこの後の物語もシリーズとして作品になっています。この本を読み終えたら、まだまだ続くバルサやチャグムの冒険を、きっと知りたくなるはずです。
 
 
三木市立中央図書館 橋本 弘枝

 

書籍情報

『精霊の守り人』
上橋 菜穂子/著
二木 真希子/絵
偕成社

 

コラム 三木市