慟哭(どうこく)は聞こえない【図書館からおすすめの一冊】
表紙の女の子の表情が気になり、手に取ったこの本。ろう者(聴覚障害者・手話を言語とする人)が抱える様々な困難を手話通訳士の視点から描いた『デフ・ヴォイス』シリーズの3作目にあたります。
耳の聴こえない親から生まれたが、自身は耳が聴こえる荒井尚人は、警察官のみゆきと結婚し、主夫業のかたわら手話通訳の仕事を続けています。仕事は「コミュニティ通訳」と呼ばれる地域での医療や行政手続きの場に派遣される事が多いですが、時には法廷で通訳をする事もありました。
本作で、荒井は手話通訳の仕事を通じ、様々な事件や困難に遭遇します。男性でありながら仕事ぶりから信頼を得て、ろう者夫婦の出産のため医療通訳をする「慟哭は聴こえない」、聴こえないモデルのテレビ番組出演のため通訳をする「クール・サイレント」、テレビ番組のインタンビュー中に画面に映り、日本手話でも日本語対応手話でもない手の動きをする男の身元を探す「静かな男」、業務上必要な手話通訳などの配慮がされなかったと会社を訴えた女性の通訳をする「法廷のさざめき」。
この4つのお話と共に、荒井の妻子、親兄弟との話が進みますが、それぞれ「聴こえないし、話せない」「聴こえないが、声は出るので話したい」「聴こえるし話せるが、家族は聴こえない」など親子や夫婦間でのコミュニケーションであっても、相手によって伝達方法が変わり、時にすれ違いながらも家族として成長していく様子が描かれています。
さて、表紙の女の子が何を伝えようとしているのか気になり、手話の本を調べてみましたが、答えを見つけられませんでした。あなたは何だと思われますか。
加東市東条図書館
書籍情報
「慟哭は聞こえない」
丸山正樹/著
東京創元社