『水中遺跡の歴史学』【図書館からおすすめの一冊】

 

 

水中考古学という比較的新しい歴史の分野において、日本がまた大きな一歩を踏み出したという喜びを噛み締められる一冊です。

水中遺跡あるいは水中考古学という言葉は、まだあまり馴染みのある言葉ではないかもしれません。水中遺跡の代表事例は沈没船で、タイタニックと聞けばきっとご存知の方も多いはず。水中考古学は、そうした沈没船をはじめ様々な水中に沈んだ遺跡を研究する学問です。

さて、今回紹介する『水中遺跡の歴史学』という本は、2016年に開かれたシンポジウム「水中遺跡の歴史学」の成果をもとにして、関連する研究者が今日における水中遺跡に関する研究を共有するため編集したものです。

本書は、序章に続いて「日本・アジアの水中遺跡」「世界の水中遺跡」「文化遺産としての水中遺跡」の三部構成なのですが、必ずしも前から順に読む必要はありません。水中考古学入門者の方には、ぜひ三部から読まれることをお勧めします。

三部では、水中遺跡の定義、日本における保護の現状や課題、活用事例などが紹介されています。水中考古学や水中遺跡への理解を深めるには、ぴったりの内容です。

その次に読まれるべきは、二部です。トレジャーハンターの盗掘を防ぐために定められた保護条約に関する紹介のほか、沈没船は遺跡であるのかという読者が疑問に持つだろう点にも触れられています。

そして、最後に一部へと戻り、近年の日本やアジアにおける水中遺跡の調査研究について読み進めてみてください。三部、二部と読んでこられた方ならば、きっと日本での水中考古学研究がこれほどまでに前進していることに驚かれることでしょう。

水中遺跡、特に沈没船は、トレジャーハンティングや財宝発見などテレビで特集されることがあります。しかし、海底に取り残された過去の遺物、遺跡だけが語る歴史も確かに存在しているのです。

西脇市図書館では、水中考古学に関する本をほかにも所蔵しております。四方を海に囲まれた日本に住む私たちだからこそ、一度といわず海底に眠る歴史に関心を向けてみてはいかがでしょうか。

 

西脇市図書館 藤原 真悠

 

書籍情報

佐藤 信/編

山川出版社

 

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コラム 西脇市