かさ【図書館からおすすめの一冊】
黒一色の線で描かれた素朴な絵本ですが、登場する女の子の傘だけが真っ赤に描かれていて印象的です。
小さい女の子が、雨が降りしきる中を大きな黒い傘を持って、赤い傘をさして街の中を一人で歩いています。
女の子は、公園の横を通り過ぎ、友だちとすれ違い、ケーキ屋さんのウィンドウをながめ、歩道橋を渡り、人形屋さんをながめ、大きな交差点を渡って到着したのは、さてどこでしょう。
そう、それはお父さんが帰ってくる駅だったのです。
雨が降っているので、傘を持っていないお父さんのために、傘を持って一人でお迎えに駅まで行くところだったのです。
そして、お父さんに出会って、傘を渡すときの女の子の得意そうな様子が、微笑ましさこの上なく描かれています。
帰り道の途中でケーキを買ってもらい、お父さんの大きな黒い傘に一緒に入って、女の子はきっと安心と喜びいっぱいの気持ちで家路についたことでしょう。
この絵本は字のない絵本なのです。
しかし、字が全くなくても、絵を追っていくと、小さな女の子の思いや、作者のあたたかい思いが、十二分にしっかりと伝わってきます。
西脇市図書館 楠本昌信
書籍情報
『かさ』
太田 大八/作・絵
文研出版